片づけられない王様 (キャラ文庫)



以前読んだ西江作品の攻キャラがクセのある印象深い男で、また同じような個性的な人物に会えるかなと期待して読んでみました。

たしかに、主人公(攻)の考えを変えていくきっかけとなる受は、とっても個性的な人物で、ページをめくるのが面白くてしょうがないぐらいの変な人。

……ですが、そんな「これがこの本のポイントだな」と踏んだところが、後半になってまったく関係なくなり、がらりと雰囲気も方向性も変わってしまうのです。

そういう意味でも心に残る、印象深い本でした。

「片付けられない王様」というタイトルに騙されるな!……です(笑)

そして、話の筋やエンディングなどには一言意見したい部分があるものの、人に対する複雑な感情が紐解くようにわかりやすく描れているので、作品としてはオススメさせていただきます。


片づけられない王様 (キャラ文庫)片づけられない王様 (キャラ文庫)
(2012/08/25)
西江彩夏

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まずはちょっと長いんですが、概略をどうぞ……

養護施設で育ち公務員として平凡ながら満ち足りた生活をしている江田(攻)は、住民苦情からゴミ溜めと化した家に住む林(受)に清掃をお願いに行き、その縁で不本意ながら林と個人的な付き合いをするようになる。

実は東京でバリバリのエリートだった林は、恋人であり上司でもある男に裏切られ、全てを奪われて心が痛んでいた。

二人は自然とまあ恋人同士のような関係になり、林は江田のおかげで立ち直り、またバンバン稼ぐようになる。東京に店をオープンさせ、遠距離にもなる。
林は自分を愛してくれている。でも自分は……?
愛するとはなんなのか、本当にその人がいいのか。
優柔不断な性格からぐるぐる悩んでばかりで一歩を踏み出せない江田。

そんな時、江田の憧れの上司、増岡が長年付きまとっていた片思い相手にこてんぱんに振られるのを目撃してしまう。酔っ払って自棄になった増岡を家に送っている最中、江田の車はトラック事故に巻き込まれ、増岡は身体が麻痺する大怪我を追う。
片思いの相手に振られた挙句、身体も動かず、江田に八つ当たりする増岡。
その増岡に心はイラッとしても、それでも生活に付き添う江田。
そして江田はついに林を置き去りにして、性格悪いのに心が弱くて純真な増岡を選んでしまって……


……と、上の概略を読んだ限りでも、「片付けられない王様」つまり片付けられないゴミ溜めに居た林は前半ほんの少しだけで、あとはすっきり綺麗な爽やか青年に変貌。

そのかわり中盤からずっと焦点が当たっているのが、このかっこよくて憧れのはずだった増岡。そしてその増岡に罪悪感から尽くしながらも、心の中でイラッとしている江田なのです。

読んでいても、増岡の江田に対する甘えた感情、本当はしたくないのに自慰を助けろと命令してしまう気持ちがよくわかります。

そしてその増岡に嫌気が差していながらも、いざ「もうお前を解放してやるよ」と言われて、増岡が本当は寂しいのだということに気づいてしまい離れられない江田の気持ちも理解できるのです。

恋人林の前で増岡を放っておけないと増岡の元へ引き返す江田は、そりゃ恋人としてまずいだろ、とは思う。
林が誤解するのも、当然だ。

けれど、この江田の増岡へ対する哀れみにも似た感情、そして増岡の寂しくて絶望してるが故に江田を引きとめようとしている不愉快極まりない感情も、同意できるかは別として、とても理解できてしまうのです。

それだけよく伝わってくる良い文章だということなのでしょう。

逆に林は後半ほとんど存在感がなく、最後の最後で二人がまた出会う場面では、あ、やっぱり元通りになるんだ、とびっくりしたほど(笑)
ゴミを溜めてた時はかなり個性的キャラだったものの、まともになったら性格もまともになって、ある意味つまらない男になってますが……

でもそんな林は当初から一貫して「江田が好き」
この半端じゃない気持ちが、江田というよくも悪くも優柔不断な男を変えていく。
これがこのストーリーの基盤。

つまり、林は江田が優柔不断さを捨てて「どんな犠牲を払っても、どんなに2人が困る状況に陥ってもあなたが欲しい、愛してる」と言って欲しかった。

そして、江田はいろんなことを考えて1つに決められない性格だけれども、増岡事件や林と数年別れてみてようやく「林だけが欲しい」のだと分かった……と、これがこの本の主題ぽい部分なのだと思います、私としては。

ちょっとラストは駆け足気味で、エッチを詰め込んだ感じで余韻もないのですが、登場人物云々よりも、ストーリー(特に増岡と江田)として、オススメです。

気持ちよく読めない部分もあるけれど、いろいろ考えさせられました。




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